72.
第六話 超一流の定義
久しぶりに打ったリアル麻雀はすごく楽しかった。目線、呼吸、仕草、動作、振る舞い、ほんのさり気ない発言、それら全てが読みの情報になるリアルの対決はネットの麻雀では味わえない面白さがある。あ、もちろん、そんな高度な読みは俺はまだ出来てないよ、でも『読まれた理由』がそれだってこと。そこが面白い。
例えばさ、こんな事があったんだ。3巡目にドラ3赤1の跳満級リャンメンテンパイしてリーチした時。
「ンーー。全然わかんないしどうしたモンかな~」とマキが言うからつい
「こんなのはただの大ラッキーだから、当たったら事故ですよねー」みたいなこと言っちゃったんだよね。なんで俺は『大ラッキー』なんて言っちまったんだろ。その発言に注目して、そこから細かく答えを紐解いたのがその時に親番のメタさんだ。
メタさんは俺のこのうかつな発言をこう読み取った。
(大ラッキー……リーチのみで使う言葉じゃないな。まず間違いなく勝負手だ。8000以上は必ずある。リャンメンテンパイ以上の可能性も大だろう。親のおれはツモられても6000支払いとかになる可能性が高いと読める。じっくり作って大物手で反撃を、と考えていたがそうもいかないらしい)
という思考が働いてメンゼンなら12000級が余裕でイメージできる手をリャンメンチー。結果、2900点でかわされたんだ。
これ、喋ってなかったら結果は違ったかもと考えるとすごく面白くないか? リアル麻雀の深さを感じるだろう?
そう、上手い人は喋りひとつ取っても隙がまるでないんだよね。手牌に関することは全くと言っていい程喋らない。割といろんなことをペラペラ喋ってるくせにだよ?(メタさんのこと)
「そう言えばさ、先日お手伝いに来てくれた財前さん、だっけ。あの人は何者なんですか。どっかで最近見たとこある気がするんですけど」
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72.第六話 超一流の定義 久しぶりに打ったリアル麻雀はすごく楽しかった。目線、呼吸、仕草、動作、振る舞い、ほんのさり気ない発言、それら全てが読みの情報になるリアルの対決はネットの麻雀では味わえない面白さがある。あ、もちろん、そんな高度な読みは俺はまだ出来てないよ、でも『読まれた理由』がそれだってこと。そこが面白い。 例えばさ、こんな事があったんだ。3巡目にドラ3赤1の跳満級リャンメンテンパイしてリーチした時。「ンーー。全然わかんないしどうしたモンかな~」とマキが言うからつい「こんなのはただの大ラッキーだから、当たったら事故ですよねー」みたいなこと言っちゃったんだよね。なんで俺は『大ラッキー』なんて言っちまったんだろ。その発言に注目して、そこから細かく答えを紐解いたのがその時に親番のメタさんだ。 メタさんは俺のこのうかつな発言をこう読み取った。(大ラッキー……リーチのみで使う言葉じゃないな。まず間違いなく勝負手だ。8000以上は必ずある。リャンメンテンパイ以上の可能性も大だろう。親のおれはツモられても6000支払いとかになる可能性が高いと読める。じっくり作って大物手で反撃を、と考えていたがそうもいかないらしい) という思考が働いてメンゼンなら12000級が余裕でイメージできる手をリャンメンチー。結果、2900点でかわされたんだ。 これ、喋ってなかったら結果は違ったかもと考えるとすごく面白くないか? リアル麻雀の深さを感じるだろう? そう、上手い人は喋りひとつ取っても隙がまるでないんだよね。手牌に関することは全くと言っていい程喋らない。割といろんなことをペラペラ喋ってるくせにだよ?(メタさんのこと)「そう言えばさ、先日お手伝いに来てくれた財前さん、だっけ。あの人は何者なんですか。どっかで最近見たとこある気がするんですけど」&
71.第伍話 イジワルな答え「もう、ムリ。降参。俺には難しかった。マキちゃん答え教えて」「んー。あとでね、いま美味しいカレー食べてる最中だから、忙しい」 絶対に食べながらでも教えられるだろと思ったけど、俺は大人しく待つことにした。やっぱり悔しいし、マキがカレーライスを食べ終わるまではもう一度考えてみようと思う。 ……とは言え、ムリなもんはムリなんだよな。どうしても3面待ちの時点で高め安めはできてしまうから。ピンフなんて役が存在しなければなー。「ハルト、本当に思い付かないの? ひとつひとつ試せば答え出ると思うけどな。カレーうまッ!」「いやだって、六七加えて六七七七だと六でピンフつかないから点数違うでしょ。七八加えて七七七八でも八でピンフつかないから点数違くなるじゃん。1七加えて147だと47が一気通貫にならないし。9七加えて369も36が一気通貫ならずでしょ。23加えて147や78加えて369も結局高め安めあるじゃんか」「モグモグ……それだけたくさん考えたのに答えにたどり着かなかったんだ。惜しいトコまでいってるけどね。……カレーがウマいけどっ…〜〜〜カラいっ! あやのぉ~、お水もう一杯ちょうだい」「はーい」ゴクッゴクッ「プハッ。結局は冷たい水が一番うまいよね」 それは言えてる、と思った。「でさ、あやののヒント思い出してみなよ。材料はあるけど揃えてないんでしょ。それはつまりさ……」「あっ、あっ、待って! わかった! わかりましたコレ! 3索7索だ!」「そゆことー。やーっとわかってくれたね。このクイズは一気通貫を見せてるのが罠だって
70.第四話 ヒントは刺身定食 俺は今月のクイズに頭を悩ませていた。3面待ちだとどうやっても高め安めは出来てしまう。なんなんだこれ。 「あやのさん。ヒント……もらえますか」「ヒントか……そーね。さっきの刺身定食、材料はカツオ一匹分以上買ってあるけど1つの皿には揃えてない。そんな感じ」「? それはそうでしょ。色々な刺身の盛り合わせなんだからカツオ一匹まるまるにはならない……」「ふふ、これがヒントよ。今月のクイズのね」「ええ?」 マジでわからん。ホントに刺身定食でヒントになってるのか? 悩み過ぎて一口も飲まないうちにアイスコーヒーの氷が溶け切っていた。 わからない……────ガラガラガラ「あやのー! 唐揚げ定食……いや、やっぱカレーライスに唐揚げ2個トッピングで!」 俺がしばらく長考していたら元気よくマキが登場した。「おれにもマキと同じのくれー。唐揚げトッピングは3個な」 同時にメタさんもやってきた。一緒にいたのだろうか。マキは現在俺の妻のようなものだ。少しだけ気になった。「おっ、ハルトー♡ 今日は早いじゃん。珍しいね」「マキちゃんはメタさんと一緒なんだね。何してたの」 その時、俺はちょっと不機嫌そうな表情をしたかもしれない。 すると……「うん? いのりを預かることについて2人で相談してたんだよ。これ
69.第三話 刺身定食へいお待ち! 久しぶりの休暇。今日は真っ昼間からあやの食堂に来ていた。マキに呼ばれたからというのもあるが、俺も今日はあやの食堂でメシを食べ、そのあと麻雀をする、そんな休暇にしようと思ってた。さて、何を注文しようかな。 うーん。悩む。こういう時好き嫌いがないと困るな。選択肢が多すぎる。しかもあやのさんが作ったものが口に合わなかったためしがないので正直どれを食べても最高の気分になれるのだ。「うーーーーん。何を食べたらよいやら……」「迷ってるならコレにしたら? 本日のおすすめ」【本日のおすすめ】刺身定食……1000円「それにします」「まあコレ、正直素材のおいしさだから私が腕を振るったって感じしないんだけども……。でも、良いものを選んだつもり。おいしいから食べてって」「刺身とか扱うんですね」「いや、たまたま。鮮魚系に力入れてるスーパーで今日は美味しそうな魚が何種も売ってたから今回はコレかなって。レギュラーメニューには入ってないよ。それにそんな大量に仕入れたわけじゃないからあと2食で終わりかな。正直、サービス品だから採算とれないし」「じゃあ食後にコーヒーもいただくよ。それなら少しは売り上げになるだろ? どうせ長居するつもりだし」「ありがと」 あやのさんは柳刃包丁を取り出すとスッ、スッと刺身を切っていった。刺身の切り方も上手だった。「なんか、普段から切ってるっぽい腕前ですね」「回らないお寿司屋さんでバイトしたこともあるから」「へぇ~」────「はい、刺身定食お待たせ。……もとい『へい、お待ち!』
68.第二話 皮パリパリのチキンステーキ 今日は元の家に帰ることにした。マメに帰らないと美咲が文句を言うかもしれないし。 三人家族が1人抜けるというのは大きな違いだ。マンパワーが1/3減るというわけだから。 「ただいま~」「あっ、お兄ちゃんおかえり!」「おかえりなさい、春人。丁度いまから晩ご飯にするけど食べる?」「うん。腹減ったし」「お兄ちゃん、食べたら雀ソウルしよーよ」「いいぜ」────「「いただきまーす」」 晩ご飯のメインはチキンステーキだった。皮がパリパリで甘じょっぱい醤油系の味付けで、なんていうか、めちゃくちゃ美味い。「母さん、この皮パリパリさせるのどうやるの? この前作ってみようかなと思って皮を延々と焼いてみたけど出来なかったんだよね」「ああ、これはね皮を下にして焼くだけじゃ出来ないのよ。その上にアルミホイルを敷いて、さらにその上に鍋を乗せて、その鍋にたっぷり水を入れるの」「押しつぶし続けてるってことか!」「そう。それが出来るならなんでもいいんだけど、私はそうやってる」「なるほどねー。今度やってみる。ありがとう! ごちそうさま」「お兄ちゃん食べんの早! 私まだまだなんだけど」「俺は先に風呂入ってるよ。美咲はゆっくり食え」「ふーい(はーい)」──── 風呂から上がると美咲は先に1人で段位戦を始めていた。美咲のスマホを覗き込む。「あれ、もう五段なのか。ずいぶんとやり込んでるんだな」「早く『龍王ヒビキ』にしたいからね」「おまえ、大学受験を控えてるってこと忘れるなよ」「わーかってるって! 今はしばらくテストないし、少しくらい遊
67.ここまでのあらすじ 乾春人はスクラッチ宝くじで60万円当てたことをきっかけに新居(借家)を契約して雰囲気だけでも新婚生活にしてみようと試みる。その引っ越し作業の際に財前カオリという女性にはじめましてと挨拶されるが、どこかで見たことがあるような気がした。 【登場人物紹介】乾春人いぬいはると 主人公。この夏は怒涛の数ヶ月だった。あれよあれよという間に恋人が2人出来て、2人は喧嘩になるでもなく、片方を振るでもなく、双方と付き合うことで解決とするという。考えうる限り最も平和な三角関係が始まり、狼狽するばかり。そんな26歳。髙橋彩乃たかはしあやの あやの食堂の店主。爽やかな笑顔で食べてくれるハルトに惚れて積極的にアタック。ハルトのほうもまんざらでもなく付き合う流れになったが、それは奇妙な三角関係であった。得意料理は唐揚げ。今は離婚して独身だが、7才の娘がいる。犬飼真希いぬかいまき あやの食堂の近所でカラオケスナック的なものを経営するオーナー。あやのとは親友で、あやの食堂の手伝いもたまにしてる。マキもハルトのことが好きだということなので2人とも愛してもらうということで落ち着いた。髙橋幸太郎たかはしこうたろう『メタ』の愛称で呼ばれている中年男性。髙橋彩乃とは3度結婚したことがある(それはつまり3度離婚したということ)。かつては超一流のプロ雀士でもあったが今は色々なものを引退してあやの食堂の手伝いをしながら気ままに生きてる。娘からは割と好かれているようだ。左田純子